大腿骨の小転子で起こるは頻度としては稀ですが、非常に重要な要素を含んでいますので注意が必要です。
大腿骨ではさまざまな部位で骨折が起こります。
有名なものでは高齢者の四大骨折に挙げられる大腿骨頚部骨折がありますが、その他にも大腿骨の骨幹部(木でいう幹の部分)で折れることもあります。
今回ご紹介する小転子の骨折は股関節で起こる骨折ではどちらかというと稀なケースですが、小転子には非常に重要な筋肉付着しており、治療には注意が必要です。
小転子と付着する筋肉は?
まず小転子の位置を確認しておきましょう。
小転子は大腿骨の大転子の逆側、場所でいうと脚の根本の内側付近にあります。
先ほどから何回もお伝えしているように、この小転子には重要な筋肉が付着します。それは腸腰筋です。
腸腰筋とは大腰筋、小腰筋、腸腰筋の総称で、股関節屈曲の主動作筋です。
腸腰筋についてはこちらで詳しく解説していますので、腸腰筋が分からない方はまず先にそちらをご覧ください。
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腸腰筋は股関節のインナーマッスルなので表面からは見えませんが、かなり強力な筋肉だと考えてください。
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小転子骨折の実際
大腿骨の小転子骨折は小児と高齢者に分けると理解しやすいです。
小児に起こる小転子剥離骨折
まずは小児に起こる場合です。
小児の場合、まだまだ成長期にありますので、特に骨の端の部分は成長の伸びしろとなっています。
成長の伸びしろとなっていることは、逆の言い方をすれば「ちょっともろい」ということですので、強い刺激がかかり続けた場合には骨端部が剥がされるように割れてしまいます。
これを剥離骨折(はくりこっせつ)といいます。
小転子でいうと、さきほどご紹介したように股関節で強い力を発揮する腸腰筋が付着しています。
ですから、腸腰筋が強い力を発揮する動作をし続けると、グイグイ小転子を引っ張って剥がしていまうのです。
好発年齢や受傷機転を熊野らは、
発症年齢は13-14歳頃に集中しており,受傷機転としてサッカーが最多であった1)
と自院での症例をまとめて報告しています。一般的には骨端線が閉じる18歳頃まで起こるようですが、中学生を中心に起こることが多いです。
受傷機転はサッカーが多、キック動作時にかかる負担が原因となります。
小転子の剥離骨折が起きた場合、歩行時や股関節他動伸展時(伸展方向にストレッチをかけたとき)、股関節を屈曲方向に強い力をかけたときなどに痛みがあります。
またスカルパ三角に圧痛を認めることもあります。
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小児の大腿骨剥離骨折の治療ですが、基本的には保存療法で様子をみることがほとんどです。ただし、
Andesonらは骨片の大きさが固定材の使用に十分であり転位が2cm以上の際に手術治療が検討されると報告している2)
という報告もあるように、比較的大きな骨片が転位した場合には手術の適応になるようです。
保存療法では安静が基本となります。歩行は最初から全荷重可能な場合もありますが、免荷(体重をかけない)期間を設ける場合もあります。
おおよそ3ヶ月目からの復帰が目安になりますが、このあたりは骨の癒合具合によりますので、医師の指示を仰いでください。
高齢者の小転子骨折
次に高齢者の小転子骨折です。
高齢者の場合、サッカーのキック動作などの激しい運動をすることはありませんので、受傷機転は転倒によるものが多いです。
ただし小転子は大腿部の内側の奥まったところにありますので、転倒で小転子だけを強打して骨折することはありません。
ではどんなときに起こるかというと、高齢者の小転子部の骨折は大腿骨頚部骨折と同時起こることがほとんどです。
大腿骨転位部骨折のAO分類でいう不安定型ですね。
小転子の転位を伴う大腿骨頚部骨折では、股関節屈曲の筋トレ時や荷重時に痛みを出す場合がありますので、リハビリの際には普通の大腿骨頚部骨折よりも少し気をつける必要があります。
筋トレの程度や荷重については、主治医としっかり相談しましょう。
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まとめ
大腿骨の小転子骨折についてお伝えしてきました。
何度も申し上げますが、小転子には腸腰筋という人間の動作においてとても重要な筋肉が関与しています。
そういう意味では動作に与える影響はとても大きいです。
ただし転位が大きくない場合は、良好な経過をたどることも多いので、医師と理学療法士としっかり治療してくださいね。
【文献】
1)熊野貴史,他:サッカーで発症した小児大腿骨小転子裂離骨折の1例.整形外科と災害外科,64:(1)187-189,2015
2)加藤田倫宏,他:小児大腿骨小転子裂離骨折の1例.整形外科と災害外科,64:(2)191-194,2015
3)野田知之,尾﨑敏史.大腿骨・転子部骨折のガイドライン.岡山医学会雑誌,第122巻:253-257,2010