リハビリにおける健側、患側とは?片麻痺の事例で詳しく説明

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股関節の疾患でリハビリをしていくとき、どちらか一方が悪いなんてことはありません。今回はリハビリの世界で時々話題となる「健側」「患側」について考えてみましょう。

 

変形性股関節症や臼蓋形成不全でリハビリをされている方を担当するとき、こんな話になることがあります。

 

「私は右の股関節ばっかり痛くて、左は全く問題ないのです」

 

もちろん左右は逆の場合もありますが、股関節の変形や圧潰が左右のどちら一方にあり、痛みは変形や圧潰がある方にだけあるということです。

なるほど。深く考えないと「そうなんですね」と応えてしまいそうですが、これには落とし穴があります。

 

そうやっておっしゃっている方の歩行を観察すると、普通ではないことが多く、明らかに痛い方をかばっている方が多いのです。

痛くない側は元気?これを考えるには、リハビリの世界で時々話題となる「健側」「患側」を考えてみるといいでしょう。

 

目次

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健側と患側

「健」と「患」という字からある程度イメージできるとは思いますが、言葉を簡単に説明します。

 


健側:健康な側、痛みや変形、手術していない方
脳卒中の患者さんでは片麻痺(運動麻痺)がない方を指す
 
患側:患っている側、痛みや変形、手術した方
脳卒中の患者さんでは片麻痺(運動麻痺)がある方を指す

 

ですから、私が学生のとき実習にでると、バイザーとのやりとりや症例レポートの中で、「歩行時の患側下肢の振り出しが」とか、「健側上肢も筋力が低下し」などと表現するわけです。

 

ただ、このうち健側という言葉がいつからか使われなくなりました。健側と言われている側が、本当に健康なのかと考えられるようになったからです。

脳卒中の運動麻痺を取り上げて説明します。

 

脳卒中になって右の脳がダメージを受けると、左半身に何らかの影響がでるという話を聞いたことはありませんか。

たとえば右の脳梗塞になると、左上下肢に片麻痺(片側だけの運動麻痺)が起こることがあります。

これは脳から運動の指令を送る皮質脊髄路という経路が、脳から出て脊髄に入る直前の延髄で大部分が逆サイドにクロスする(錐体交叉)からです。

 

ただ「大部分が」と書いたように、20%ほどの繊維は交叉せずに同側に進みます。

錐体路(延髄の錐体交叉)

じゃあいままで言ってきたように、右の脳梗塞になったら左に片麻痺がでて、右側は健康かと言われればそうではないですよね。少なくとも約20%の影響は受けるわけです。

ですから最近では健側と言わずに、「非麻痺側」と言うようになりました。(この話の流れでいくと完全に麻痺していないかも微妙ですが)

 

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股関節疾患でも健側ではない

股関節の話に戻しましょう。

変形性股関節症や臼蓋形成不全で保存療法を行っている方であれば、痛みや変形がない方も完全に健康な側とは呼べません。

これは痛い方をかばったり、活動量が低下して筋力が落ちていたりするからです。

 

また人工股関節置換術をされた方の場合も、手術をされた側は「術側」と呼びますが、手術をしていない側は健側ではなく「非術側」と呼ぶべきですね。

人工股関節置換術をされた方の非術側の筋力については、健常群(何も疾患がない人たち)に比べて、有意に低下しているという話題も学会で散見されます。

 

菊池らの調査では、人工股関節置換術を受ける患者さんの術前と術後(退院時、3ヶ月後)の非手術側筋力の膝関節伸展筋力と股関節外転筋力を、健常群と比べると、膝関節伸展筋力は術前、退院時において健常群に比べ低値を示し、股関節外転筋力では全ての時期で有意に低値を示したそうです。1)

この結果をみると、やはり非術側の筋力も健康(正常)ではないことが伺いしれます。

 

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まとめ

リハビリにおける健側、患側について考えてきました。

どんな疾患のリハビリでもそうですが、痛みがない、変形していないからといって、そちら側が健康ということはないです。

記載として「健側」と書くことがあったとしても、何らかの影響があることを忘れてはいけませんよ。

 

【文献】
1) 菊池佑至,他:健常者と比較した人工股関節全置換術後患者の非術側筋力.Hip Joint Supplement vol.37:76-78,2011

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