患者さんのリハビリをしていると、こんなことをよく聞かれます。
「筋トレは毎日何回すればいいですか?」
筋力トレーニングについては、テレビの情報番組や健康雑誌でも目にすることが多いですし、こちらのブログでも何度か取り上げてきました。
私は必要以上の筋トレには反対の立場です。
医療従事者の「とりあえず筋トレしましょうか」と、患者さんの「筋トレしておけば大丈夫だろう」という風潮には危うさを感じています。
ただし適切な筋トレは無駄にはなりませんし、立位や歩行に必要な筋力がない方は筋力をすべきでしょう。
ですから必要に応じて筋トレをお伝えする場合もあります。
そんなときよく聞かれるのが筋トレの回数や頻度についてです。
筋力増強の理論
筋トレの回数を何回にするか考える前に、筋力増強の仕組みについてまず知っておかなければなりません。
そのとき必ず出てくる言葉がRMです。
RM
RMとはRepetition Maximuの略で、日本語でいうと「反復可能最大重量」といいます。
反復が可能な最大の重さということですので、1回しか挙げられない重さなら「1RM」と言いますし、10回挙げられる重さなら「10RM」と言います。
10RMならその重さの重りを10回挙げたときに、「あぁー、もうこれ以上無理!」という重さになります。11回、12回とできる重さなら、それは11RM、12RMとなりますのでご注意ください。
一番分かりやすいのは1RMですね。つまりフルパワーで1回しか挙げられない重さです。
鋭い方は感づいておられるかもしれませんが、RMでは回数と重さは反比例します。つまり「◯RM」の◯の部分の数字が小さくなれば重さが増え、逆に◯の部分の数字が大きくなれば重さは減ります。
少し前の話になりますが、プロ野球の阪神タイガースなどで活躍された金本知憲さんが現役の頃に、トレーニング風景を公開していましたが、そのときにはかなり重い負荷でスクワットをやっていました。(おそらく3RMぐらい?)
まずRMの概念はよろしいでしょうか。
強度
では強度はどれぐらいに設定すればいいのでしょうか。
よくリハビリでは「10回を目安にして」と言われますが、本当に10回ってどこからきているのでしょうか。(何もキリがいいからではありません)
このときに重要となるのが何RMかなのですが、筋肉をつけたいと思っているのであれば少し強めの強度にするのが基本です。
リハビリで対象となる方の場合は、筋肥大といって筋肉が太く大きくなるとことを目的にすることが多いです。筋肥大を目的にするなら10RM前後が適度な強度となるため、10回という回数が提示されるのです。
ただスポーツ選手の場合、筋肉が肥大して体重が重くなることができない場合もありますよね。
たとえば野球で俊足の選手とか、ジャンプをする必要があるバレーボール、体重の制限がある柔道やレスリング、重い方が不利に働くクライミングなどではできるだけ筋肥大させずに筋力の向上をはかります。
そんなときには3RM前後の強度に設定すると、筋肥大を起こさずに筋力の向上がはかれます。
では逆に回数が増えるとどうなるのでしょうか。
低強度、たとえば20RM前後の強度では筋持久力がつくと言われています。
先ほど「少し強めの強度にするのが基本」と書いたのですが、極端な話で100RMなんかに設定して、100回挙げられるような強度だと筋力も、筋肉も、筋持久力もつかないのです。
よく機能訓練型のデイサービスで回数自慢をしている高齢者がいるのですが、たくさんの回数ができる強度で運動をしても疲労しか残りませんのでご注意ください。
「そんなこと言われても10RMとは分からないよ」という方は、トレーニングジムやデイサービスで筋トレをするときに、まず最大で挙げられる重さを調べてみてください。
その数値のおおよそ75%が10RMです。(分かりにくければ70%でもいいです)
図のような膝伸展運動の器械で、たとえば100㎏挙げられるとすれば、筋トレでは75㎏に設定して10回するということです。
何セットするか
これもリハビリをしたことがある方なら「10回を1セットにして1日に3セットしましょう」と言われたことがあるかもしれませんね。
筋肥大を目的にするなら最低でも1日に3セット、できれば5セットぐらい行いましょう。連続で行う場合には、セット間には2分程度のインターバルが必要です。
頻度
最後に頻度です。
この頻度がなかなか難しい。というのも「毎日するべき」と言っている人と、「1~2日おきに行うべき」と言っている人がいるからです。
ボディービルを専門的にされている人は、「今日は上半身、明日は下半身」(もっと細かく分けている人もいらっしゃいますが)と間隔を空けています。
なぜ間隔を空けるのか?そのときに出てくるのが超回復という言葉です。
超回復は「ちょーがつくほど回復します」ってことではありません。漢字は忘れてもらってもいいのですが、こういう法則があるということだけは知っておいてください。
筋トレをすると、筋肉はつかれますよね。激しい筋トレをしたときには、筋肉の線維が傷ついた状態になっています。
そんな傷ついた状態で翌日さらに強い負荷をかけると、なんとなく良くない気がしませんか。風邪をひいているときに、激しい運動をする感じですかね。
ですから、筋線維が回復するまで時間を空けた方がいいというのが、超回復の簡単な説明です。
ただし超回復の考えはやや古くなりつつあります。
どれぐらいの強度のトレーニングで筋線維の損傷が起こっているかしっかり見極める必要があり、損傷していないのであれば毎日でもいいということになります。
個人的な考えとしては、患者さんや高齢者がする10~15PM程度の運動であれば高強度ではありませんので、毎日筋トレを行ってもいいのではないでしょうか。
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毎日筋トレする別のの理由
毎日筋トレをすることには別の理由もあります。
習慣化で調子が分かる
毎日同じ運動を同じ時間にすれば、その日の体調を把握しやすくなります。また天気や気温、睡眠時間、食事によって体調が変わることが分かれば、どれぐらい動いてもいいのか目安が立ちます。
プロ野球の中継ぎ投手の中には、登板前のブルペンで毎日同じ珠数、同じ球種、同じコースを投げることによって、その日の調子を感じ取り投球を微調整することもあるそうです。
自信をつける
これは精神的な話になりますが、毎日継続して筋トレができている人は、やはり良くなっていく傾向が強いです。
それは前向きに努力できるという証でもあり、がんばった分は自分に返ってくるものです。
継続は力なり、ということですね。
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まとめ
リハビリにおける筋トレの強度やセット数、頻度についてお伝えしてきました。
簡単にまとめるつもりが、これだけ見ても筋トレにはたくさんの要素があることがご理解いただけと思います。
細かく言えば、遅筋か速筋か、大きいか小さいか、食事はどうするか、などなど他にもたくさん考える要素はあります。
まずは基本となる部分をお伝えしましたので、気になる方はご自身で調べてみましょう。
筋トレの参考になれば幸いです。