近年ランニングによる股関節の痛みを訴える方が増えています。
ランナーを悩ませる股関節の痛み、その原因と対策について考えてみました。
最近、街中をランニングしている方をよく見かけますよね。
それもそのはず、かつてないほど空前のマラソンブームが到来し、各地のマラソン大会に参加される市民ランナーは急増しています。
その一方で、ランニングによる身体の障害も増えており、ランナーズニーに代表されるように、痛みを訴えるランナーも増えています。
ランニングと股関節痛
以前こちらのブログにこんなご質問が届きました。
題名:殿筋と股関節痛
性別:男性
年齢:40代
診断名:その他疾患
メッセージ本文:
こんにちは。マラソン歴4年の40代男子です。身長170cm体重64kg。昨年末より身体を左に曲げると右殿部に痛みが走り、全く走れなくなりました。
初期は自分でお尻を触っていると、右の殿部からミシッ!と大きな音がしてびっくりしたほどです。
整骨院で中殿筋が痛んでいると鍼治療を行ってきました。症状はかなり改善しました。
ただこの春は3カ月ほどランニングも控えて休養をとっているのですが、なかなかスッキリ痛みがとれません。
右の大腿骨と骨盤の間の筋肉がずっと痛いです。また大腿骨と骨盤の合わさる関節を前から押すと痛みます。整形外科でレントゲンも撮りましたが骨と関節に異常はないと言われました。
トレーナーや鍼灸院でマッサージと鍼治療をしてもすぐまた痛みます。痛みをスッキリ取る方法はないものかと悩んでいます。
数年前からマラソンを行っている男性からのご質問です。
こちらの男性のように、ランニングによって股関節の痛みが出現する方が本当に増えているんです。
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ランニングに関わる股関節の痛みで考えるべきこと
ではここから長くなりますが、ランニングと股関節の痛みの関係において、考えるべきことを列挙していきます。
股関節の痛みはいつから?
痛みが出現し始めた時期は?(例:3ヶ月前から、1週間前から)
股関節の痛みの部位は?
これは分かりやすいですね。どこが痛むかです。
- 股関節の外側
- 骨盤の中の方(奥の方)
- お尻
- 鼠径部
など、痛みの部位を理解しておくことは必須です。
股関節の痛みはなに?
次に何が痛いのかも抑えておく必要があります。痛みがでる組織としては、
- 筋肉
- 骨
- 関節(軟骨含む)
- 関節唇
- 靭帯
などがあります。
もし分かるのであれば筋肉は何筋(例:中殿筋、大腿筋膜張筋など)か分かれば、原因はかなり特定しやすくなります。
ただどの組織なのか、またどの筋肉なのかを特定するには専門知識が必要です。
股関節の痛みの詳細は?
次は痛みです。痛みとひとことで言ってもたくさん考えるべきことはあります。
- 安静時(例:ランニング直後、ランニングした夜、3日後)
- 荷重時
- 安静時も荷重時も両方
運動を伴う場合なら、
- 屈曲したとき
- 伸展したとき
- 外転したとき
- 内転したとき
- 外旋したとき
- 内旋したとき
- 股関節の複合運動時(例:屈曲+内旋+内転など)
- 他の部位を動かしたとき(例:膝関節を屈曲したとき)
どの動きのときに痛むのか。
またその痛みは、
- 常時
- 時々
- たまに
出現するのか。
さらにどんな痛みなのか?
- ピリピリ
- ヒリヒリ
- ズキズキ
- キリキリ
- ジンジン
- ズシリ
- ズキーン
- チクチク
- チクッ
- ミシッ
- ズキッ
- 変な違和感がある
どれぐらいの痛みなのか
- 死ぬ程
- かなり
- 少し
- 違和感がある程度
その痛みはどう変化していくのか?
- 放っておけばすぐ改善
- 翌日には改善
- 2、3日安静にすれば治る
- その動作(例:股関節の深屈曲)をしなければ基本的に痛みはない
- 湿布をすればましになる
- 治らない
痛みに関して最低でもこれぐらいは分けて考えるべきでしょう。
股関節の痛みの原因は?
原因は疾患的なものと、ランニングに動作に関わるもの、この2つに分けると理解しやすいでしょう。
まずは疾患に由来するものからです。
変形性股関節症
変形性股関節症についてはこちらのブログで何度も取り上げています。
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ただし痛みの程度と、変形の進行度合い、軟骨のすり減り具合はリンクしないこともありますので、その点には注意が必要です。
臼蓋形成不全
臼蓋形成不全もこちらのブログでは何度もお伝えしていますよ。
股関節が浅い(関節の被覆率が低い)ことが臼蓋形成不全の特徴ですが、その状態では股関節への負担が大きいです。
以下にそのあたりの話を書いておりますので、ご興味があればぜひ。
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股関節唇損傷
近年話題となっている股関節唇損傷です。
股関節唇損傷の原因はいろいろありますが、同じ動作を繰り返すことによって起こるものもあります。
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単純股関節炎
幼稚園から小学校入学時頃のお子様に主に起こります。
転んだり、使い過ぎたりしていないのに急に起こることがあります。(時には風邪の後に起こることもあり)
お子様が好発年齢であれば、この疾患を疑ってもいいでしょう。
股関節の炎症
単純股関節炎は子どもに起こりますが、それとは別に股関節に起こる炎症によって痛みが続く場合もあります。
原因は後ほどお伝えするオーバーユースや負担のかかる姿勢や動きの繰り返しによって起こります。
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鼠径部痛症候群
サッカー選手などに出現する鼠径部付近の痛みですね。
鼠径部痛症候群は他の疾患と混同されることも多く、しっかり区別することが必要です。
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弾発股
股関節を動かしたときに、外れそうな違和感があったり、ボギッと音が鳴るならこの疾患が疑われます。
股関節外側では腸脛靭帯が大転子部で引っかかって起こります。
疲労骨折
股関節周囲(骨盤含む)で起こる疲労骨折は、成長期の若年者と成人に分けると理解しやすいです。
股関節を構成する骨盤には下肢の重要な筋肉の起始や停止が存在します。また下肢の筋肉はかなり強い筋力を発生するため、繰り返す過度な負荷によって骨折する場合があります。
若年者の場合、運動で過度な負担がかかると骨盤で疲労骨折を起こす場合があります。
疲労骨折を起こす部位としては、上前腸骨棘や下前腸骨棘が多いです。
上前腸骨棘には股関節の外側にある大腿筋膜張筋と、大腿部の前面を斜めに走る縫工筋の起始があります。また下前腸骨棘には大腿直筋の起始があります。
上前腸骨棘で起こる疲労骨折は剥離骨折(付着部を引き剥がす骨折)であることが多いです。
そのあたりはこちらで詳しくお伝えしています。
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下前腸骨棘で起こる疲労骨折も発生する原理は同じです。
成人の場合は、坐骨や恥骨の疲労骨折で、特にマラソンランナーのように走りこんでいる人、その中でも特に女性に多く起こります。
坐骨や恥骨の疲労骨折は、鼠径部痛症候群との区別がつきにくいので注意する必要があります。
大転子部滑液包炎
主に股関節外側の痛みの原因となる疾患です。
大転子部滑液包炎についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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ここまでが疾患に起因するものです。続きましてランニング動作に起因するものです。
オーバーユース(使いすぎ、過用)
目標設定を間違っている方も多いですよ。目標とするランニングよりもハードワークになっていないか確認します。
ダイエットが目標
目標がダイエットならジョギング程度のスピードで、1回あたり20分で週に3回程度の有酸素運動でいいでしょう。
心拍数は「目標心拍数=(220-年齢)×0.6~0.7」を目安にします。50歳の方であれば、「目標心拍数=(220-50)×0.6~0.7=102~119」ですね。
健康維持が目標
ひと言で健康維持といっても、20歳の人と50歳の人であれば運動量が変わってくると思うので「週◯回、△km走りましょう!」とは言えません。
アドバイスとしては自分の空き時間(ランニングに使える時間)に合わせて、時間や距離を決めて週に2~3回行えばいいのではないでしょうか。
あと週末にまとまった時間がとれるのであれば、少し長い目の距離(時間)を走ればいいでしょう。
マラソン完走が目標
ハーフマラソンなのか、フルマラソンなのか、1ヶ月後にレースがあるのか、1年後なのか、などによって変わってくるので、そのあたりはご自身が目標とするレースに合わせて決めましょう。
フォーム
フォームの修正は痛みが出現する部位によります。
股関節の奥の方に痛みがでる場合は、骨盤が後傾位なっていて大腰筋の使えない状態になっていることが考えられますので、走行中の骨盤を中間位(もしくはわずかに前傾位)をします。
また外側の中殿筋や大腿筋膜張筋が痛ければ、左右の揺れが大きいフォームになっていることが考えられますので、体幹を安定性を高めます。
大転子部滑液包炎が起こっているなら、外側重心で着地するフォームを変えます。(もしくは外側重心でしか着地できない原因を探す必要があるかも)
靴、インソールが悪い
靴はクッション性のあるランニング用のものを選びましょう。
最近はインソールも用途に応じて用意されていますので、必要な人は使ってみましょう。
身体の状態が悪い、運動前の準備不足
例えば股関節が硬すぎてランニングに必要な関節可動域がない、下肢の筋力が全然足りない場合は、どこかに負担がかかっていきます。
また準備体操となるストレッチもしっかり行うようにしましょう。
その他
日差があるかないかも気をつけてみておくといいでしょう。(例:晴れの日は調子がいいけど雨の日は痛みがひどくなる)
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痛みを複雑に入り組んでいる
ここまで痛みの原因と対策について考えてきましたが、痛みの原因や要素はひとつだけではありません。
たとえば股関節の痛みがあり整形外科に受診されたとき、ご自身で医師に説明するとき、どのように状況を伝えますか?
「ランニングしてたら股関節が痛いんですよ。」
これだと先生は全然分からないと思うんです。
これならどうでしょう。
「来月フルマラソン大会に出場するのですが、毎日5km走っています。
1ヶ月程前から、このあたり(骨盤の横あたりを指して)が痛くなってきて練習を休んでいます。休んでいたら少しはましになるのですが、走るとまた痛みがでてきます。」
少し状況が分かりやすくなりましたね。
では最後にこれならどうでしょう。
「来月フルマラソン大会に出場するために、半年前から毎日5km走っています。
1ヶ月程前からこのあたり(骨盤の横あたりを指して)の筋肉が、ランニング中の脚を着くときにズキッとした強い痛みが走るようになりました。
ランニング後にはズキズキとした軽い痛みに変わり、安静にしていると翌日には元に戻っていたのですが、1週間ほど前から翌日の朝にも痛いが残るようになり、練習を休むようになりました。
練習を休んで今日で1週間になるのですが、その後安静時の痛みは減ってきます。
シューズやインソールはスポーツショップで選んでもらって、適切なものを使っています。
いままで股関節の疾患があると言われたことはないのですが・・・。」
かなり細かい状況が分かるようになりましたね。
病院に受診するときにはこれぐらい細かく説明できた方がいいです。なぜかというと、細かく痛みの状況を説明できる人は、自分の状況をしっかり理解できています。
自分の状況を理解できている人、病院に行けば何か状況を見つけてもらえるだろうと思っている人、どちらが症状を改善できるか、言わなくても分かるでしょう。
自分の身体のことですから、これぐらいは考えましょうね。
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まとめ
ランニングによる股関節の痛みの原因と対策についてお伝えしてきました。
痛みを詳しく分析することは、痛みの手がかりを知るヒントになります。またご自身で原因が分からない場合でも、病院を受診される際に医師や理学療法士に伝えることで、答えを導きやすくなります。
最後にひとつ注意があります。
痛みについて自分で試行錯誤することは大事ですが、疾患を伴う場合もあるので、痛みがある場合には必ず整形外科を受診し、まず医師の判断を仰いでください。
疾患は誤った自己判断すると、痛みを長引かせるだけでなく、疾患や症状を進行させる可能性があります。
まずは原因を明らかにして、その対策を考えていきましょう。