運動エネルギーと位置エネルギーと歩行の関係、ポイントは振り子にある

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私たちが何気なく行っている歩行。でもじつはめちゃくちゃ奥が深いのです。

歩行をエネルギー変換という視点で見れば、歩行でなぜ過度に疲労したり、痛みを生み出したりするか理解できます。

 

今回は歩行の要となるもの、エネルギーの変換と倒立振り子モデルについてご紹介します。

 

突然ですが、60㎏あるものを1㎞運ぶことをイメージしてみてください。

体力に自信がある男性でも、60kgのものを1km運ぶことはなかなか難しいでしょう。

 

実は成人男性の平均体重は約60㎏です。

ということは、人は何も考えずに歩いているのに、60㎏近くある身体を長距離運べるのです。

 

街中で「歩きスマホ」をしている人をよく見かけますが、よそ見したり、おしゃべりしたり、注意がそれていても、歩くことで60kgの身体を運ぶことができています。

そう考えると、歩行ではなぜ60kgの身体を苦労せずに効率よく運べるのか疑問に思うでしょう。

 

実は低エネルギーコストの移動を実現するために、歩行動作は非常に巧みな力学的特徴を有しています。

これを力学的に保証するために必要なのが、運動エネルギーと位置エネルギー、そして倒立振り子モデルの存在です。

 

これらがそれぞれ巧みに変換されることにより、効率的な歩行が可能となります。

 

今回は物理の観点から歩行を見ていきましょう。一見関係ないように感じる物理ですが、人の歩行にはすごく役立っていることが理解できますよ。

 

目次

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運動エネルギーと位置エネルギー

運動エネルギーとは「物体が持っている仕事をする力」のことです。

例えばボウリングの球を投げピンに当てると、ピンが弾け飛ばされます。

歩行を運動エネルギーと位置エネルギーから考えると振り子が重要

これはボウリングの球が持っている運動エネルギーがピンに当たって、ピンを弾き飛ばしたということです。

 

もっと強く球を投げると、先程より激しくピンは弾け飛びますよね。

これは運動エネルギーが強くなった状態です。

 

ボウリングの球のスピードが速くなればなるほど、球がピンを弾き飛ばす力は強くなります。

これが運動エネルギーの作用です。

 

次に位置エネルギーとは、物体がある位置にあることで蓄えられるエネルギーのことです。

 

今度は高いところから球を落とすところをイメージしてください。ボウリングの球は危険ですけど、分かりやすいので想像してください^^;

ボウリングの球を落とす場所が高ければ高いほど、床に落ちたときの衝撃は強くなります。

 

これは位置エネルギーの力ですが、もう少し詳しくいうと、位置エネルギーが持っていたエネルギーが運動エネルギーに変わったことよる衝撃です。

位置エネルギーは運動エネルギーに変わることがありますし、運動エネルギーが位置エネルギーに変わることもあります。

 

運動エネルギーと位置エネルギー3

 

分かりにくい方は、運動エネルギーは「動いている物体には何か力が宿っている」、位置エネルギーは「高いところにある物体にはそれだけで力が宿っている」、それだけでいいので覚えてください。

 

では、この運動エネルギーと位置エネルギーが歩行ではどのように活かされるのでしょうか。

 

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歩行中のメカニズム「倒立振り子」モデルとは?

振り子とはご存じの通り、こんなやつです。

振り子モデル

これを倒立(逆さま)にすると、このようになります。

倒立振り子モデル

そしてこの倒立振子を人に当てはめると、大きめの青い丸が骨盤、支点部分が足部になります。

 

一般的に歩行中、踵が床に着く瞬間に進行方向への身体の移動速度は最大になります。

つまり運動エネルギーが最大になっている状態です。

 

 

踵が地面に着いた後、進行方向に対する移動速度が徐々に低下していきます。いうなれば、踵と地面でブレーキがかかっています。

その代わりに足部を起点にして、骨盤が徐々に上昇していき、運動エネルギーが位置エネルギーに変換されます。

IC

 

骨盤の最高到達点は、足部がこの位置に来たときです。

mst

この時に位置エネルギーは最大となります。

その後、重力の力を借りて骨盤は再び下がり始め、運動エネルギーに変換されます。

 

このように位置エネルギーから運動エネルギーへ、運動エネルギーから位置エネルギーへとスムーズに変換されることで、歩行は楽に、そして快適に行えるのです。

 

下の図のように、もし膝の関節が悪くて、まっすぐ伸ばすことができなければ、どうなると思いますか。

白

骨盤を高い位置に上手く運ぶことができず、位置エネルギーを高い位置に上昇させることができません。すなわち、エネルギーの変換は上手に行われないということです。

 

よって、スムーズに動作できなかった分のエネルギーを筋肉で補う必要があります。

これが「少し歩いたら疲れる」という効率の悪い歩行の特徴のひとつで、この状態が続けば痛みの原因になることもあります。

 

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まとめ

歩行のメカニズムを、運動エネルギーと位置エネルギーの観点からみてきましたが、エネルギーの視点から歩行を見ることはとても重要です。

 

実際、臨床で運動麻痺のある脳卒中の患者さんの歩行を観察すると、上記の「倒立振り子モデル」が機能しなくなっていることがほとんどです。

リハビリでは歩行獲得のために、倒立振り子モデルをいかに機能させるかということを考えながら歩行練習を行っていきます。

 

倒立振り子モデルを機能させるためには、膝関節や足関節だけではなく、骨盤、股関節、膝関節、足関節とそれぞれの関係性を俯瞰(ふかん)して見ていくことが必要です。

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