今回は脛骨骨折についてです。
脛骨の骨折では保存療法で対処する場合もあれば、手術する場合もありますが、どちらの場合もリハビリがうまくいかず経過が難渋する場合もあります。
「弁慶の泣き所」という言葉を聞いたことがありますか?弁慶の泣き所とは脚のすねのことです。
あの弁慶も泣いたといわれるすねの周りには保護してくれる筋肉が少ないため、ぶつけるとものすごく痛いです。これは誰でも経験したことがあるのではないでしょうか。
すねは臨床上、骨折しやすい場所でもあります。
しかも骨折すると手術が必要な場合がありますし、荷重までに時間がかかり、元の生活に戻るまでに大変な苦労が生じます。
今回はそんなすねの骨折を部位別に分けて解説していきます。
すねの骨の解剖
普段みなさんが「すね」と呼んでいるのは脛骨(けいこつ)という骨です。
試しにパソコンやスマートフォンで「すね」を漢字変換してください。きっと脛骨の「脛」に変換されると思います。
脛骨は膝関節と足関節を構成する骨のひとつで、膝関節の下側の下腿にある骨のひとつです。
簡単に下腿の解剖を復習しておきましょう。
下腿には脛骨と腓骨(ひこつ)があります。
近位では脛骨が膝関節を構成し、遠位では脛骨と腓骨で足関節を構成しています。
ちなみに近位とは、頭からみて近い位置という意味で、後ほど解説する遠位は遠い位置を意味します。
ですから脛骨近位端とは「脛骨でも(頭側に)近い位置にある端」ということです。
脛骨と腓骨の解剖については以前こちらのブログでご紹介しておりますので、さらに詳しく知りたい人はそちらをご覧ください。
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今回は脛骨の骨折を骨幹部、近位端、遠位端に分けて解説します。
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脛骨骨幹部骨折について
最初にご紹介するのは脛骨骨幹部骨折です。
脛骨骨幹部骨折は折れ方により、単純骨折・分節骨折・粉砕骨折などに分けられます。
脛骨骨幹部骨折の受傷機転
サッカーではすねを蹴られることが多く、そのためサッカー選手はすね当て(レガース)をしてサポートしています。
このように、すねに強い外力が加わると脛骨の骨幹部を骨折してしまうことがあります。
脛骨の内側は皮膚の直下にあります。そのため骨そのものが直接外力を受けやすいからです。
その他、日常生活で骨折をする場面としては、
- 強い力で椅子や机にぶつけたとき
- バイクや自転車の転倒時にぶつけたとき
- スノーボードで足部が固定されたまま転倒したとき
などがあります。
あと強い外力による骨折以外にも、バレエダンサーやバレーボール選手、陸上の長距離選手など、長期間に渡り繰り返し刺激が加わることで疲労骨折を起こすこともあります。
骨折時のレントゲンはこんな感じ。
脛骨骨幹部骨折の治療について
治療は保存療法と手術療法があります。
保存療法ではギプス固定を行います。対象はほとんど転位をしていない場合、整復後に安定した場合などです。
手術療法では主に髄内釘固定を行います。これは脛骨の中に太い釘を入れて固定する方法です。
他にはプレートで固定する方法もあります。
対象は転位をしている場合、整復しても不安定な場合などです。
脛骨骨幹部骨折の手術後のリハビリについて
手術後はしばらく荷重制限がかかり、体重がかけられない状態となります。
リハビリ内容としては、関節可動域練習や筋力トレーニング、バランス練習、動作練習などを行っていきます。
歩行練習も行っていきますが、荷重がかけられないため松葉杖で患側(手術した脚)は上げた状態で行います。
荷重に関しては、いきなり全体重をかけると骨への負担が大きいため、徐々にかける量を増やしていきます。
脛骨骨幹部骨折後の生活上の注意点
脛骨骨幹部骨折は膝関節に関係する近位端骨折や、足関節に関係する遠位端骨折と違い、関節内の骨折ではありません(関節自体には問題がない)。
ですから本来であれば関節可動域が低下することはないように思えます。
しかし膝関節や足関節に関節可動域制限が生じるケースがあります。
これはなぜでしょう?
ひとつ考えないといけないのは、脛骨骨幹部周囲には骨幹膜や前脛骨筋、後脛骨筋など足関節に関係する筋肉が多く付着しています。
そのため骨幹部周囲が損傷・炎症を起こすことで、それらの軟部組織に影響が及び足関節の関節可動域制限が生じるケースがあります。
もうひとつ、足関節のケース同様に、脛骨骨幹部周囲が損傷・炎症を起こすことで膝関節にも影響が及び、結果として膝関節の関節可動域制限が生じることもあります。
ですから、骨折部だけでなく、隣接する関節にも影響を及ぼすと考えるべきで、受傷後の炎症管理や、早期から膝や足関節のストレッチなどは念入りに行った方が改善は早くなります。
骨折が治れば基本的には歩くことも運動も行えます。
注意することは、骨折部は他の場所と比べ弱いため、同じ場所に負担がかからないように注意しながら生活・スポーツを行ってください。
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脛骨近位端骨折について
次に脛骨近位端骨折についてご紹介をします。
脛骨近位端骨折は別名「脛骨高原骨折(けいこつこうげんこっせつ)」や「プラトー骨折」とも呼びます。
脛骨近位端骨折の受傷機転
脛骨近位端骨折は主に膝関節への強い外力により起こります。
若い人では交通事故による受傷が多いです。バイクや自転車でぶつかったときや、転倒して地面に叩きつけられるような強い外力が加わったときです。そのためバイクや自転車に乗られる方は特に注意が必要です。
また骨粗鬆症の高齢者でも転倒によって起こります。
脛骨の近位端は膝関節を構成するため、チューリップのように開いて大腿骨を受けられる形になっています。
先ほど紹介した骨幹部との大きな違いは、近位端の骨折は直接膝関節の状態に影響を及ぼす可能性があることです。
脛骨近位端骨折の分類
脛骨近位端骨折にもいろいろな折れ方があり、その分類をご紹介いたします。今回は臨床で用いられるHohl修正分類とAO/OTA分類についてです。
Hohl修正分類
AO/OTA分類
同じ近位端の骨折でも折れ方はさまざまで、折れ方によって治療方針も変わってきます。
脛骨近位端骨折の治療方法について
治療方法は大きく分けて保存療法と手術療法があります。
治療方針は年齢や合併症の有無、転移などさまざまなことを考慮して決定されます。
保存療法では主に骨折した骨のズレが少ない場合に適応となり、ニーブレース固定となります。固定期間中は基本的には荷重できません。
ニーブレースに関しては、膝蓋骨骨折の記事をご参照ください
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手術療法は骨折した骨のズレや転移がある場合に行い、骨折の程度によってプレート固定やスクリュー固定を行います。
手術後4週間程度は免荷(体重をかけない)で、その後は徐々に荷重していきます。
関節可動域練習や筋力増強運動は主治医の判断で開始となります。
脛骨近位端骨折の手術後のリハビリや生活上の注意点
リハビリや注意点に関しては、さきほどご紹介した脛骨骨幹部骨折と同じです。
リハビリ後、歩行や運動は行えます。しかし脛骨近位端骨折特有の問題として、膝を曲げる角度に制限で生じる可能性があります。
そのため膝の屈曲角度が少ない場合には、膝を深く曲げる生活動作、たとえば正座や和式トイレなどの動作には支障が出ることがあります。
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脛骨遠位端骨折について
最後は脛骨遠位端骨折です。
脛骨遠位端骨折の受傷機転
この骨折は交通事故や高所からの転落による大きな圧ストレスが加わることで受傷します。例えば日常生活では脚立などから転落して受傷します。
ただし、道路で車を避けようとして溝に足を踏み外して受傷した患者さんもいらっしゃいましたので、高所でなくとも骨折する可能性はあります。
脛骨遠位端骨折の分類
脛骨遠位端骨折は別名“Pilon骨折”や“脛骨天蓋骨折”ともいいます。
脛骨遠位端骨折の分類で用いられるのはRuedi分類です。
脛骨遠位端骨折も、折れ方が単純なものから複雑なものまでさまざまです。
脛骨遠位端骨折の治療方法について
治療方法は骨折の程度や転位の仕方により方針が決定されます。
こちらも大きくは保存療法と手術療法に分けられます。
保存療法となるケースは、軟部組織損傷が軽く閉鎖骨折であること、関節外骨折で転移が少ないもの、関節内骨折でも転移が1㎜以内であることなどの条件が必要となります。
分かりにくければ、比較的程度の軽い骨折だと考えてください。
保存療法はギプス固定します。
ギプス固定中は荷重制限がかかるため、体重をかけることができません。松葉杖を使い歩くことはできますが、足を浮かせて歩くため転倒に気をつけましょう。
ギプス固定の場合、全体重をかけられるようになるまで数ヶ月かかることもあるためデメリットも多いです。
手術療法では、基本的には髄内釘やプレート、スクリューで骨折部を固定します。
腫脹や軟部組織の状態が悪い場合は、骨折部の手術の前に創外固定をするケースがあります。創外固定とは、足に数カ所のボルトで固定し足の外側で全体を固定する方法です。
良い写真がなかったのですが、イメージはこんな感じです。
皮膚を貫いて、皮膚の外側で固定します。
分かりにくいですが、レントゲンではこんな感じで写ります。
創外固定をして、軟部組織の状態がよくなり手術ができる状態になるのを待ちます。
足関節周囲を固定するため、この期間は足首を動かしたり、体重をかけたりすることはできません。
少し余談になりますが、軟部組織について簡単にご説明します。
軟部組織とは、骨以外の筋肉、腱、靭帯、皮膚、脂肪組織などの総称のことで、軟部組織の状態が悪いと手術後の傷の治りに影響がでます。
そのため、軟部組織の状態が良くなったら骨折部の固定術を行います。固定術を行うと創外固定は外れます。
脛骨遠位端骨折の手術後のリハビリと生活上の注意点
保存療法のリハビリは、ギプス固定しているため荷重したり、患部を動したりすることはできません。そのため患部以外のストレッチや筋トレなどがメインになります。
一方、手術療法のリハビリでも手術直後は荷重禁止になり、およそ4〜6週間程度で荷重開始となります。
この間、患部の関節可動域訓練は可能です。これに加え筋トレなどを行っていきます。
脛骨遠位端骨折の場合、足関節可動域に制限が出るケースが多いです。
理由として、脛骨遠位端は足関節と関わりが深いこと、脛骨遠位部周囲の軟部組織が炎症や損傷を起こし制限因子につながることなどが挙げられます。
そのため手術後早期から患部の炎症管理、足関節可動域練習を積極的に行っていきましょう。
保存療法でも手術療法でも、順調に進めば問題なく歩くことができます。
ただし足関節の可動域の回復具合によっては、しゃがみこみ動作や正座がやりづらくなります。
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まとめ
脛骨骨折の分類や治療、リハビリについてお伝えしてきました。
いずれの骨折も長いリハビリ期間が必要ですが、最終的には歩けるようになります。
ただし膝関節や足関節の可動域によっては、正座やしゃがみ込みが行いにくくなりますので、リハビリを行っていくときには膝関節と足関節の関節可動域に気をつけましょう。
最後になりますが、脛骨骨折は大きな衝撃が加わって起こる骨折です。
つまり転倒や転落しなければ起こることはほとんどないので、転倒にはくれぐれも気をつけましょう。
【文献】
1) 徳永真巳:下肢プラトー骨折 関節内骨折,関節外科 Vol.32 10月増刊号,2013
2) 鈴木剛他:Pilon骨折の治療成績,骨折27(2),694-697,2005.