腓骨神経麻痺という疾患をご存知ですか?
骨折や手術後に起こるかもしれない腓骨神経麻痺ですが、実はそれ以外にも原因があります。
腓骨神経麻痺は名前の通り「腓骨神経が麻痺する症状」です。
ここでいう腓骨神経は総腓骨神経のことだと考えてください。
総腓骨神経が麻痺すると、前頚骨筋など総腓骨神経領域の筋肉が使えないため、下垂足などの原因になります。
ではなぜ総腓骨神経は麻痺を起こすのでしょうか。その理由は解剖を理解すれば一目瞭然です。
早速ですが総腓骨神経の解剖と、麻痺を起こす原因について考えていきましょう。
総腓骨神経の解剖
総腓骨神経の解剖は以前こちらのブログで、下肢の神経について解説したときにお伝えしました。
まだご覧になっていない方は、先にそちらをご覧ください。
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このときにもお伝えしましたが、総腓骨神経は腰椎下部や仙骨レベルから出る神経が集まって坐骨神経となり、大腿部後面を走行します。
膝窩のやや上で脛骨神経と総腓骨神経に分かれ、総腓骨神経は腓骨頭のすぐ後ろを通って下腿前面に届きます。
その後、外側の長腓骨筋や短腓骨筋にいく浅腓骨神経と、前頚骨筋や長趾伸筋、長母趾伸筋などにいく深腓骨神経に分かれます。
ここまではよろしいでしょうか?
今回のメインテーマである「腓骨神経麻痺の原因」をお伝えするにあたってポイントがふたつあります。
ひとつは総腓骨神経は坐骨神経の流れを受けているということ、もうひとつは下腿前面に向かうときに腓骨頭のすぐ後ろを通っているということです。
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腓骨神経麻痺の原因
ではなぜ腓骨神経麻痺は起こるのでしょうか。
大腿骨頚部の骨折が原因となるもの
大腿骨頭や頚部のすぐ後ろに坐骨神経は走っています。
大腿骨骨頭が後方に脱臼して骨折を伴う場合には、骨片が坐骨神経を傷つける可能性があります。
坐骨神経は総腓骨神経よりも脊髄に近い位置にあるため、もし坐骨神経付近で何か問題が起こった場合には、総腓骨神経領域や脛骨神経領域の問題として出現する場合があります。
これは以前お伝えした川の理屈ですね。
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特に坐骨神経の外側線維が総腓骨神経につながっていくので、外側の損傷は腓骨神経麻痺の原因になることがあります。
また大腿骨頚部骨折でも転位が大きく、後方に転位した場合には稀に坐骨神経を傷つけることもあります。
もうひとつ、これはあってはいけないのですが、手術時に坐骨神経を傷つけてしまって、腓骨神経麻痺が起こるケースも散見されます。
総腓骨神経の圧迫が原因となるもの
次は総腓骨神経の圧迫が原因となるものです。
総腓骨神経は腓骨頭のすぐ後ろを通っていますので、腓骨頭付近が圧迫されると起こります。
ギプスによる圧迫
脛骨や腓骨など下腿の骨折時にはギプスを巻くことがあります。
長めのギプスを巻いた場合、腓骨頭付近にかかることがあるのですが、きつく巻いてしまうと腓骨頭が圧迫されて腓骨神経麻痺を起こすことがあります。
あと最近は減ってきましたが、大腿骨頚部骨折を受傷して、手術までの間に介達牽引を行う場合に、腓骨頭を圧迫して腓骨神経麻痺を起こすことがあります。
腓骨の骨折
腓骨でも腓骨頭に近い部分を骨折して、総腓骨神経を圧迫するように転位すれば腓骨神経麻痺を起こす可能性があります。
下肢外旋位による圧迫
骨折などでベッド上で臥床してるときや、寝たきりの患者さんが股関節外旋位をとることで、腓骨頭が圧迫されます。
ひとつ例を挙げます。
写真のような状態で寝ているとします。
左脚は足先がほぼ上を向いていますが、右脚の足先は外側に開いています。
このような状態で寝ていると、腓骨頭がが床に圧迫され、腓骨神経麻痺を起こす可能性があります。
腓骨神経麻痺を起こしてるかは、腓骨神経が支配している他の領域の運動や近くが障害されていないかを調べていれば予防できます。
具体的には同じ側の脚の母趾や示趾をチェックしますが、普通は病棟の看護師が確認しているはずです。
その他の原因
直接総腓骨神経を圧迫しなくても、坐骨神経を圧迫することによって腓骨神経麻痺の症状がでることがあります。
たとえば梨状筋症候群。
梨状筋付近で坐骨神経の圧迫があった場合、外側の総腓骨神経線維を圧迫すれば、腓骨神経麻痺と同じ症状が起こります。
同じように、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症でも腓骨神経麻痺が起こる可能性があります。
これらの場合は、腓骨頭付近の圧迫を解除することで問題は解決しませんので、元になる梨状筋症候群や腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症を治療する必要があります。
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まとめ
腓骨神経麻痺の原因についてお伝えしてきました。
腓骨神経麻痺は下垂足歩行を引き起こします。
下垂足歩行などの歩容の変化は、股関節痛や膝痛の原因にもなる可能性があります。
骨折やギプス固定、外旋位などの圧迫があった場合には原因は分かりやすいです。
腓骨神経麻痺はなかなか治らないことも多いので、しっかり予防しましょう。