人工股関節置換術をすれば関節可動域は良くなるのか、これは一概に言えない場合もあります。今回は、人工股関節置換術後の関節可動域制限の原因について考えてみましょう。
変形性股関節症など人工股関節置換術(THA)の手術を受ける方の主訴の多くは痛みです。「痛みをどうにかしたい」「痛みさえなくなれば」という想いから、手術を決意されます。
人工股関節置換術を受けられたときに、もたらされるメリットの主たるものは除痛です。そういう意味では、患者さんが望まれるもの、そして医療従事者が提供できるものは一致します。
ただ変形性股関節症の症状は痛みだけではありません。関節の可動域が低下している方もいらっしゃいますし、痛みと関節可動域の低下に悩んでいる方もいらっしゃいます。
関節可動域の低下に悩んでいる方が人工股関節置換術の手術をされた場合、除痛の場合のように関節可動域の著名な改善はもたらされるのでしょうか。
人工股関節置換術後に関節可動域はどうなる?
変形性股関節症を例にとると、人工股関節置換術を受けると股関節面自体は人工物に置き換えられるますが、変形はなくなります。
そう考えると、関節可動域はすごく良くなりそうですよね。
ただし関節面が人工物に置き換わったからといって、関節可動域が著名に良くなるかは別問題です。
まず手術後の関節可動域の可動域の低下の原因には、手術前から起こっている筋肉の短縮などの問題があります。
たとえば、股関節の内転筋などの短くて太い筋肉が、長期間伸ばされずにいた場合、関節可動域には大きな影響を与えます。
関節可動域に大きな影響を与える場合、股関節の内転筋腱を切離する場合もあるほどです。
人工股関節置換術後に関節可動域制限を改善するためには、術前の筋肉の筋肉の状態もできるだけ調整していおくのがベターでしょう。
筋肉の影響でいえば、もう1つ筋スパズムの影響があります。
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筋スパズムと関節可動域制限
まず筋スパズムとは何かということですが、山岸はこう説明しています。
筋スパズムは統一した定義がなされているとは言い難いが,神経学の分野では筋攣縮と呼ばれ,「断続的に生じる一定の持続時間をもった異常な筋収縮状態」とされる.理学療法の分野では「痛みなどに起因する局所的で持続的な筋緊張の亢進状態」を指すことが多い.
引用)山岸茂則:筋スパズム.理学療法ジャーナル 44:495,2010
筋スパズムとは「筋肉の攣縮(れんしゅく)」のことです。攣縮とは「痙攣(けいれん)して縮んだ状態」で、その攣縮が異常に筋肉に起こった状態です。
分かりにくければ、筋肉がとても緊張した状態と考えましょう。
では筋スパズムはなぜ起こるのでしょうか。それは手術に伴う痛みが大いに関係しています。
たとえば股関節の屈曲の可動域を広げようと、他動的(理学療法士が動かす)に関節可動域運動をしたとします。
その際痛みがあれば、「ちょっと待って!痛いから動かさないで!」と、股関節は痛みを防ぐために防御収縮を起こします。防御性収縮が起こると、筋肉が普通よりも緊張した状態になるので、筋スパズムが起こります。
この筋スパズムが関節可動域の原因となることがあります。
それを図に表すとこんな感じです。
人工股関節置換術の手術中に、麻酔がかかった状態で関節の可動域を計測します。カルテには『術中角度』として記載されていますが、理学療法士がリハビリを行うときには、この角度が当面の目標となります。
なぜなら、術中には麻酔が効いているため、防御性収縮や筋スパズムがないからです。
ただし麻酔から覚めていざリハビリが開始されると、痛みや防御性収縮、筋スパズムなどのために思うような関節可動域が得られないことがあります。
そこに先ほどお伝えした術前の問題が加わることもあり、「手術をしたのに思うような股関節の可動域が得られない状態」が起こるのです。
理学療法士はこれらに指を咥えて見ているわけではなく、しっかりアプローチすることもできます。
こちらのの図をご覧ください。
手術の侵襲は私たちの手で変えることはできませんよね。「ハンドパワーで傷よ、小さくなれー!」というのは無理が、赤字に注目してください。
術前すでに起こっている痛みに対する防御性収縮や、筋肉の短縮は運動療法でアプローチが可能です。また関節可動域運動をうまく行えれば防御性収縮は軽減できますし、筋スパズムは起こさなようにできます。
これらをケアすることができれば、術中に確認された関節可動域に近づくことができるかもしれません。
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まとめ
人工股関節置換術後の関節可動域制限の原因について考えてきました。
股関節に限らず、関節可動域制限の原因は1つではなく、複雑な要因が絡み合って起こります。ですから今回ご紹介した筋スパズムも1つの原因でしかありませんが、重要な要素だと私は考えます。
術前と関節可動域がほとんど変わらない、なんてことにならないようにしっかりケアしていきましょう。