関節可動域訓練は何のためにするのでしょうか。今回は関節可動域について考えてみたいと思います。
こちらのブログにもときどき届くのですが、
「リハビリのときに無理やり動かされて痛みがひどくなりました」
というご意見をよく耳にします。
関節可動域訓練のときに、無理やり動かされたという話ですね。無理やりってどうなんでしょう?
私が理学療法士になりたての頃は、なんでも力で解決しようとする理学療法士がたくさんいました。(ほんとにめちゃ多かったです)
患者さんを押さえつけたり、脚をベッドや台にしばりつけたりして、無理やり関節を曲げていきます。
涙ながらに耐える患者さん、汗をかきながら鬼の形相で関節を曲げようする理学療法士。こんな光景をリハビリ室でよく見かけました。
いまでもそうですが、「リハビリはつらいもの」「リハビリは痛いもの」という概念がセラピスト、患者さんの双方にあり、苦行こそが改善の近道を言わんばかりに痛みを伴う治療をしていました。
こんなことを書くとリハビリにかかったことがない方は驚くかもしれませんが、本当にそうだったんです。いまは減ってきて、こんな痛くてなんぼの治療をしているのは年配の先生が多いのではないでしょうか。
もちろん多少の痛みは伴うこともありますが、「痛いこと=良いこと」ではありませんので、もし痛み至上主義の治療を現在受けておられる方がいらっしゃいましたら、少し考えた方がいいかもしれませんね。
そんな関節可動域訓練ですが、関節の角度を改善するために行います。もちろんそれがメインなのですが、実はもっと大切なことがあります。
それは制限因子を見つけることです。
何が関節をそうさせているのか
理学療法士になるためには、専門学校にしろ大学にしろ、学生の間に実習にでる必要があります。短い実習なら1日だけの見学実習もあれば、長いものなら8週間の治療実習もあります。
治療実習にもなると、現場で働いている理学療法士と同じように、患者さんの評価や治療(のようなもの)をさせていただくのです。
学生のときにバイザー(指導教官)から患者さんの関節の可動域を測っておくように言われることがあります。学生は患者さんの身体に触った経験もほとんどありませんから、四苦八苦しながら関節の角度を計測します。
たとえば股関節を測った後、こんなやりとりになります。
バイザー:右の股関節屈曲は何度やった?
学生:85度です。
バイザー:股関節の参考可動域は?
学生:125度です。
バイザー:そうやな。じゃあなんで可動域は落ちてるんやろ?
学生:えっ?
バイザー:「えっ?」じゃなくて、どこが悪そう?
学生:あぁ・・、分かりません。
バイザー:分からんじゃなくて、動かしているときに何か感じなかった?
学生:・・・・。
と、理学療法士や作業療法士じゃない方には、何のことかわからない会話です。
これは私も言われたことがあるのですが、要は動かしながら股関節の可動域が悪くなっている原因を何か感じ取るようにしていたのか、とバイザーは言いたい訳です。
ただ学生は「関節の可動域を計測すること」を指示されているので、関節の角度を測ることだけに必死になり、関節がなぜ硬いのかなんて考える余裕はありません。
実際の現場にでて理学療法士や作業療法士として働きだすと、学生時代のように関節可動域だけを測る時間という時間はありません。
関節を他動で動かすときには、角度を測ることも、可動域の制限因子を探ることも、そして治療することも全て同時に進行していきます。
角度が増えるということは、関節角度の制限となっている因子を取り除けたということですから、その原因となっている因子を探ることは、関節の角度がよくなる以前の問題として重要なのです。
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精密に扱うべき関節
ここまで書くと、無理やり豪快に動かすことがあまり良くないことだと、なんとなくイメージできてきたのではないでしょうか。
そうです。本当に良いことではありません。
話は変わりますが、先日テレビの番組で開かなくなった金庫を鍵師に開けてもらうという企画をやっていました。
鍵師とは、鍵のかかった金庫などを開けるスペシャリストですね。
その番組で開けようとしていたのは、このようなダイヤル式の金庫でした。
鍵師は聴診器を当てながら、慎重にその音を聞き分けます。ダイヤルを回したときの、かすかな違いを読み取るためです。
1つ解読するのに1時間以上。本当に気の遠くなる作業です。それぐらい音の聞き分けに、時間がかかるということでしょう。
関節を扱うときもこれと同じです。精密機器を扱うように手に神経を集中して動かす必要があります。
これは自転車のワイヤーロックですが、ダイヤルで解錠できるようになっています。
数字をひとつずつ回しながらその感触を確かめ、感触だけで解錠できるかどうか友人とチャレンジしたことがあります。
結果は失敗。鍵師のようにはうまくいきませんでした。
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まとめ
関節可動域訓練の目的について考えてきました。
関節可動域訓練では、関節の角度を改善することばかりにスポットが当たりがちですが、本来の目的は制限因子を見つけることにあると私は考えています。
そういう意味では、力まかせの治療なんかできるわけはなく、関節を繊細に扱える技術が求められます。
痛みを出す関節可動域訓練が良い訓練ではありませんので、くれぐれも注意しましょう。