股関節の手術後には痛みが出るものなの?なぜ痛みは続くのか?
大きな決断をして臨んだ手術後に残った痛みにはどう対処すべきなのでしょうか。
股関節の手術、特に人工股関節置換術の場合、痛みやADLに障害のある方の最終手段として用いられます。
「この手術をすれば痛みから解放される」
そう思っていたのに、なかなか痛みから解放されない方もたくさんいらっしゃいます。
手術が悪い?それともリハビリ?これからどうなるの?そんな不安の中で過ごすのは本当につらいものです。
人工股関節置換術後の痛み
以前こちらのブログに痛みが続く方から、ご質問をいただきましたのでご紹介します。
(※プライバシー保護のため、一部加筆・修正しています)
題名:術後1年後のリハビリについて
性別:女性
年齢:40代
診断名:人工股関節置換術後
メッセージ本文:
病歴
生後8ヶ月で左先天性股関節脱臼が発見され、牽引・ギブス等効果なく、1歳2ヶ月で手術しました。その後もリーメンなどして始歩は2歳近くでした。
12歳で骨切り術(大腿骨と骨盤はキアリ術)術後2ヶ月で輸血後肝炎発症のためリハビリ中止し内科治療を優先し小児科に移ったため、リハビリは術後1年半後に退院目前に歩行訓練を少ししただけで退院後の指導もなし。
小児科入院中はほぼ車椅子で外泊時は松葉杖。退院後も松葉杖で、術後2年の外来で「いつまで使っているの」と外されましたが、上体が揺れる歩き方はそのまま残りました。
骨切り後は脚長差1.5cm。補高無し。
30代前半の第一子妊娠時から左股関節にだるさが出て、30代半ばの第ニ子出産後から痛みが強くなりました。
40歳ごろに3cm補高(推定脚長差5cm)。43歳ごろから600~700m歩くのがつらくなり、左半身背中、肩甲骨あたりまで痛くなり、吐き気で寝込むこともしばしばとなり、40代半ばで人工股関節置換術を行いました。
手術は□□県の◯◯病院で受けました。術後脚長差2cm。術後は執刀医にフォローしていただいています。側後方アプローチで15cm程切り、3週間で退院となりました。
現在困っていることとしては、術後1年経ちますが完全に杖が外せません。家の中と職場内は杖なしで移動できますが、外を歩く時外すと1~2日で術前のように背中や肩に痛みや、無理をすると吐き気が出ます。
背中が痛いのは、入院中リハビリの先生に「足を持ち上げる筋力がないのを背中の筋肉で代償してなんとか歩いていたからだ。」と言われました。また入院中の主治医からは術後に「筋肉ペラペラで、すぐ骨に行けた(からリハビリ心してやれ!)」と言われました。
二週に一回通っている鍼灸師の先生にはいつも「左半身全部ゴリゴリだけど、特に今回の手術の傷の周りと骨盤穿刺の下あたりのこりがすごい。」と言われます。太ももの内側と、ふくらはぎの筋肉も痛く、外旋筋も軟球でほぐすと痛いです。
自分の感覚では、お尻の筋肉のどこかが足りない感じと、とにかく筋肉がすぐガチガチになってしまい、うまく歩けなくなります。自分でも筋トレの後毎日マッサージし、湿布薬貼り、それでも退院直後よりはましになったと思います。
長年で付いた身体の癖が抜けないのも原因かと思いますが、やはり必要な筋力が足りないのと、術後可動域も歩き方も劇的に改善したので、身体中の筋肉がついて行けてないように感じます。何十年振りに体が左右対象になったようで、戸惑いもあります。
まだ少し歩くとき左肩が下がりますが、手術したと知らない人なら分からない程度だと友人には言われます。ただ、左片足立ちすると上体は左に傾き、10秒弱しか立てません。診察では、人工関節の状態は良い、今まで通り筋トレしてと言われるだけです。どちらかというと、執刀医もどうして杖が外せないのか分かりかねるという感じです。
長々と申し訳ございません。メールだけではなんとも言えないとは思いますが、考えられる原因と対策を教えて頂ければ、色々自分の体で試してみたいと思います。
よろしくお願いします。
丁寧な文章から、悩みやヒントが垣間見え、かなり身体のことを考えておられるのが伝わってきます。
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脚長差が戻ることで生まれる違和感
私はブログや著書の中で「歩行のための筋トレは要らない」と度々書いているのですが、それは歩行のための最低限の筋力が備わっているときのことを想定しています。
お聞きしている状態、特に片脚立位が10秒弱しかできない状況を考えると、筋力があるとは言えないでしょう。
ですからまずは筋力が要るとアドバイスしたいのですが、ただそれは股関節周囲の筋力だけでなく、たとえば足首の周りだったり、太ももだったり、お腹の周囲だったり、全てがバランスよく必要です。
極端な話、股関節周囲が100%の筋力でも、足首周囲が10%ぐらいしかなければ片脚立位は保持できません。
先生のおっしゃる筋トレ、どこが必要なのかをまず探すことが大事かと。このあたりは医師は不得意なので、理学療法士に診てもらうのが一番いいと思います。
あと術後に脚長差が改善しても、すぐに身体が順応するわけではありません。わかりやすい話でいうと、伸ばされた状態になる筋肉もありますから、それらは急に仕事ができるとは限りません。(筋肉は短縮しすぎても、伸ばされても働きにくい性質があります)
また筋肉のことでいうと、長年使っていなくて弱ってしまった筋肉は、筋肉としての機能を失っていて、元には戻りにくいです。
さらにご自身でもおっしゃっていますが、急に可動域を獲得したことも問題を難しくしています。
可動域があることは本来良いことですが、可動域が広がると広くなった可動域の分だけ筋肉は責任範囲が広がります。また可動域がない状態(関節がかたい状態)は、筋肉の責任範囲が狭いだけでなく、関節もかたい状態の方が立位を保持しやすいのです。
ですからここにも慣れていく必要があります。
たくさんで申し訳ないのですが、さらに、まだ2cmの脚長差があるようですので、その歩き方をマスターしなくてはなりません。
これも著書に書きましたが、補高は万能ではなく見かけ上の脚の長さをそろえるだけです。ですから補高で脚の長さがそろっていることと、歩き方は分けて考えるべきでしょう。
ざっと書きましたがまとめますと、
- 左下肢、体幹で筋力が弱りすぎているところを改善させた方がいいが、術後筋力は戻りにくい状態になっている部分もある。
- 可動域の分だけ筋肉に責任を追わせることになる。
- 脚長差に合わせた歩き方や立ち方をマスターしていく必要がある。
ということです。
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まとめ
人工股関節置換術後の痛みについてお伝えしてきました。
人工股関節置換術を受ければそれで終わりではなく、良姿勢(良肢位)や適切な歩行が術前よりも求められます。
そういう意味では、ご自身の身体を理解していく必要がありますので、客観的に診てくれるリハビリのスタッフと相談しながら、やるべきことをやっていけば痛みは改善してくるはずです。
痛みが続いてる方は、なぜ痛むのか、その原因から探してみてはいかがでしょうか。