最近話題の股関節におけるインピンジメント(=はさみこみ)はなぜ起こるのか?その原因をわかりやすく解説します。
股関節を深く屈曲すると、股関節前面につっかかり、つまった感じはありませんか。
もしそのような症状がある方はインピンジメントが起こっているかもしれません。股関節におけるインピンジメント、つまりはさみこみは、FAIという診断がつきます。
FAIとは「femoroacetabular impingement」の略です。“femoro”は大腿骨、“acetabular”は寛骨臼、“impingement”ははさみこみをそれぞれ意味し、産業医科大学の内田先生はこれを「大腿骨寛骨臼挟み込み」と定義しています。
FAIを治療しないと変形性股関節症になってしまうことがあり、変形性股関節症の原因のひとつとして近年注目を集めています。
股関節のFAIの原因と診断
股関節でのインピンジメントとは、寛骨臼と大腿骨頚部の間に股関節唇や軟骨などの軟部組織が挟み込まれます。
インピンジメントはペルテス病や大腿骨頭すべり症などの疾患や形態異常が原因になるものや、スポーツや日常生活での慢性的な繰り返しの刺激が原因なるものがあります。
形態異常が原因となるもの
臼蓋に骨棘や形態異常があるタイプ、大腿骨頚部に出っ張りがあるタイプ、その両方を合わせ持つタイプに分けられます。
pincer typeについてはこちらの動画をみるとわかりやすいです。
CAM typeについてはこちらの動画をご覧ください。
FAIを引き起こす可能性のあるスポーツの例
野球、サッカー、バレエ、新体操、スピードスケート、エアロビクス、自転車競技など、股関節の深い屈曲から元に戻す動作を繰り返す競技の選手に起こるといわれています。
もちろん形態に異常があることを知らずに、スポーツで深屈曲を繰り返して起こる方もいらっしゃいます。
インピンジメントを繰り返すと、関節唇損傷や軟骨損傷を引き起こし、一部は変形性股関節症へつながっていくこともあります。ということは、この徴候があるうちに治療できれば、変形性股関節症へと移行していく可能性を減らせるのかもしれません。
FAIの診断には問診、関節可動域検査、インピンジメントを誘発するテスト、レントゲン撮影、3DCT、MRIなどが行われます。
インピンジメントを誘発する代表的なテストでは、前方インピンジメントテスがあります。前方インピンジメントテストでは、股関節を屈曲・内転・内旋したときに、痛みが出現したときに陽性で、「前がつまる」という訴えで表現されることが多いです。
また仰向けに寝て、あぐらをかくように膝を外に倒すテスト(feber test)もよく使われます。
テストが陽性の場合、MRIなどの精密検査も行いFAIかどうか総合的に診断されます。
注意して欲しいのは、これらの診断には正常との違いを見極める知識や経験が必要です。必ず股関節の専門医に診察してもらうようにしましょう。
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骨に巻き込まれる感じ
インピンジメントが起こっている患者さんからご質問をいただきましたので、ご紹介させていただきます。
—– 題名 —–
CPO術後のリハビリ
—– 性別 —–
女性
—– 年齢 —–
50代
—– 疾患名 —–
変形性股関節症
—– 治療経過を詳しくお書きください —–
臼蓋形成不全による変形性股関節症で4ヶ月前にCPO術を受け3ヶ月で杖もとって多少身体が揺れますが頑張って歩いたりリハビリしていますが、最近股関節前面が骨に巻き込まれるそうで車から降りた時やリハビリ中など突然痛くて歩く事が出来なくなります。
一回なると何をしても寝るまで続きます。同じ手術をした20代の女性はなったことがないと言っていたので筋力の違いではと思います。
どう対処したらよいでしょうか?とにかく突然本当に痛みで動けなくなるので怖いです。
股関節の前面がつまる感じで多いのは、股関節がうまく動かず、股関節の前面にある組織を巻き込んで痛みがでる場合があります。
これを回避するには、骨・関節と筋肉をうまいタイミングよく、調和のとれた動きをする必要があります。
ただ今回の手術後の骨と、実際の骨の動きがわからないのでそれに当てはまるか分かりかねます。
こちらの症状について執刀医はどうご説明しているのか気になったので、その旨をお伝えしたところ、次のようなご返信をいただきました。
こんなに早くご連絡頂けると思っていなかったのでうれしいです。
主治医には術後4ヶ月目の診察で話したらレントゲン前面を指して、「ここが巻き込まれるんだよな」とおっしゃいました。
その後、ベットに座らされて太ももに手を置いて押し返してと言われて筋力検査をすると、「筋力が弱いな」ともおっしゃっていました。
「立って足を一歩後ろに引いて股関節を伸ばしたら治らない?」と言われましたが全然効果がありません。
もともと國津先生が言われる様に前面の組織を巻き込む症状は手術した人が全員なるらしく、今でもストレッチした後はゆっくりじゃないと伸ばせません。
先生のおっしゃる骨や関節、筋肉を調和させるにはどのようにしたら良いのでしょうか?
どこの病院に行ってもすり減ったら人工関節と言われ、5人目の先生でやっと専門医に巡り合えて手術できました。
しかし自宅からは遠い病院でリハビリは入院中しか受けられませんでした。
主治医から紹介してもらって他の病院でリハビリを受けられることになりました。しかし同じ手術・症状の患者さんいなくて、わからないので紹介状をリハビリの先生からもらって来てくださいといわれました。
入院中もほとんど人工関節の患者さんで、3人同じ手術を受けましたがリハビリの先生も1人しか担当できる方がいらっしゃいませんでした。
今度病院に診察に行くのは3ヶ月後で、手術をしたらその病院ではその後のフォローがない状態です
先生のわかることで良いので助言お願い致します。
最近は人工股関節置換術が全盛の時代で、自骨を用いた手術をしている病院が少ないので、苦労されているようですね。
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関節の遊びはありますか?
今回のご質問の回答は簡単ではありませんが、原因になるもののひとつとして「関節の遊び」が考えられます。
車に乗られない方のために説明すると、車のハンドルはわずかに動かしただけでは、タイヤの方向は変わりません。そんな小さな動きでもタイヤの向きが変わるように設定されていたら、運転がかなり大変になります。
中間位からその動かない幅をハンドルの遊びと呼んでいます。
これと同じように人体の関節にも遊びがあります。これは車と同じく、骨が動かない小さな範囲です。
遊びという言葉がわかりにくのであれば、余裕とかゆとりと考えてください。わかりにくければ、ウエストの少し大きめのズボンを履くときと思ってください。お腹まわりに余裕があるでしょ。
股関節でいえば、関節窩である寛骨臼の中を関節頭の大腿骨頭が動くわずかな遊びがあります。
遊びは大きければよいというわけではなく、大きすぎるとルーズな感じが増えて、よくない運動を生み出す可能性もあります。大きすぎる遊びは、逆にインピンジメントの原因になる場合もありますので、注意が必要です。
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股関節の屈曲と遊び
股関節の模型を使って説明していきますね。
まず股関節を横からみた図です。
本来なら股関節には遊びがあります。
股関節に疾患を抱えていたり、廃用が進んでいる方はこの遊びが少ない。
何も考えずに動かずと関節内に遊びがないので、骨頭の中心はこの場で回転するしかありません。その結果、浅い屈曲角度でも前方でつっかえてしまいます。
より大きく曲げようとすれば、この遊びを使ってうまい方向に運動を導いてあげます。
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まとめ
股関節前面のインピンジメントの原因と関節の動きについてお伝えしてきました。
注意していただきたいのは、インピンジメントの原因は、関節の遊びの少なさだけではありません。
関節の状態、骨の形状、筋肉など、様々な要素が考えられます。
要は股関節が挟み込みを起こさないような動きを作れるかどうかが重要です。 インピンジメントを起こさないためにはどこを変えていけばいいのかを考えて、そこを改善していけばいいわけです。
股関節の理学療法士でないとわかりにくいので、もっと知りたい方は実際に触ってもらう機会がある理学療法士に相談してみてください。