臼蓋形成不全の方についてのご質問をいただきました。とても大切なことが書かれていますので、ぜひご覧ください。
臼蓋形成不全については、なんとなく理解されている方も多いと思いますが、被覆率について知らない方がほとんどだと思います。
「被覆率」
聞いたことがない名前だと思います。
少し難しい用語ですが、すごく大切になってきます。
できるだけ分かりやすくお伝えしていきますね。
臼蓋形成不全についてのご質問
早速ですが、いただいた質問は以下です。
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國津先生。はじめまして。股関節の痛みで悩んでおり、偶然こちらのサイトを見つけてメールをさせて頂きました。長くなりますが、どうぞよろしくお願い致します。
当方、二十代後半に差し掛かる女性です。子どもの頃(おそらく幼稚園入園前)に右側の臼蓋形成不全の診断を受けています。
子どもの頃は特になんの支障もなく過ごしてきましたが、高校生になってから急に右股関節と、それに付随して右膝にズキズキと鈍い痛みが出るようになりました。
臼蓋形成不全が原因ではないかと母に言われ、最初に診断を受けた病院とは別の、近くの病院に行きました。そこでもやはり臼蓋形成不全との診断でした。ただごくごく軽傷で日常生活にさほど支障はないだろうとのこと。左足に比べて筋肉が少なく細いので、病院でのリハビリと筋トレで経過を観察しようということになりました。
リハビリの内容は理学療法士の方によるマッサージや機械を使った筋トレ歩く練習などでした。しかし、一年ほど通ったところで通院をやめてしまいました。十年も前のことなのであまり覚えていませんが、恥ずかしながら私の怠慢によるものだと思います。特に改善が見られないまま終わらせてしまいました。それからパッタリと整形外科に行くことはなくなりました。
前置きが長くなりましたが、ここから本題に入ります。
病院通いをやめて何年も経ち、社会人になっても変わらず痛みは出ていました。特に重たいものを持った時や歩きすぎた時、寒い時などに痛みが表れます。辛いときは湿布を貼ったり整体に通ったりしましたが結局、一時的な気休めでした。
そしてここ1、2ヶ月で右股関節と右膝の痛みが慢性的に出るようになりました。足を伸ばしても座っていても立っていても常に痛みがあります。昨年秋に出産した影響が今になって出ているのか、または若い頃にリハビリをサボったツケが来たのか。
とにかく、日々痛みが強くなっているので近所の個人病院の整形外科へかかりました。ちなみに結婚して現在他県に移り住んでいるため、かかったのはまた別の病院です。ややこしくてすみません。
そこで少し驚く診断を受けました。X線画像を見る限り、臼蓋形成不全は見られないしなんの問題もないと言われたのです。確かに素人目でもちゃんとカサをかぶっているように見えました。
ただ実際に痛みはあるし、十年前から症状は出ていると再三話したのですが、その先生いわく「出産や子育てによる一時的な痛み」とのこと。湿布を処方されて終わりました。 どうにも納得がいかず、日を改めて今度は整形外科専門の個人病院に足を運びました。
しかし、そこでの診断も同じでした。レントゲン画像に異常なし。なんの問題もなく大したことがない、と軽くあしらわれてしまいました。それではこの痛みの原因は何なんでしょうと聞いたところ首を捻られ、結局、原因不明扱いになりました。
私としては、今までずっと臼蓋形成不全による痛みだと思っていたので、その診断をあっけなく覆されて釈然としません。別になんの異常も問題もないのならそれは喜ばしいことなのですが、先ほども書いたように痛みは 実際にあります。
ただ納得のいく説明がほしいのです。原因が知りたいです。
確かに私の診断された臼蓋形成不全は本当に軽いもので、普通の人と大差はないと言われたので、レントゲン画像では何とも判断がつきにくいのかなとも思います。
臼蓋形成不全でないとしたら、原因としては何が考えられるでしょうか?ただの思い込みや不定愁訴なのだろうかと私自身少しヤケになってしまっています(苦笑)これ以上ドクターショッピングするのも躊躇われるので、何かしらの見解を頂きたく思います。
以上、長文になり申し訳ありません。お忙しいことと存じますが、國津先生のご意見をお待ちしております。何卒よろしくお願い致します。
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臼蓋形成不全は改善するのか?
長文に思いがしっかりと込められていますね。ドクターショッピングをしているとたしかに心が疲れてしまいますね。
そういう意味では、しっかり見解を述べてくれる医師と理学療法士に出会えればいいのでしょうが、なかなか医師も理学療法士も昔気質の診察や治療しかしてくれないことが多いです。
こちらのご質問を読んでポイントと思ったことが2つあります。1つは、臼蓋形成不全が改善していたことです。これについては2つの病院(医院)でレントゲンを診てもらっているので、間違いではないでしょう。
軽度の臼蓋形成不全は改善することは可能です。ただしそれは筋力トレーニングで改善するということではなく、立位姿勢や歩行においてうまく荷重できていれば、大腿骨の骨頭に多い被さる軒の下の部分は形成されていきます。
病院にかからなかった10年間、どのように過ごされいたのか、ご本人さまの表現ではリハビリを特別していたわけでもなさそうですが、骨形成という意味では悪くない結果となっています。
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臼蓋形成不全の痛みと被覆率の関係
2つめは臼蓋形成不全の痛みと被覆率の関係です。被覆率とは大腿骨頭に対して、臼蓋がどれぐらい覆いか被さっているかを意味します。
臼蓋形成不全だけで言うと、レントゲン撮影をすれば臼蓋形成不全、もしくは形成不全に近い方でも気づかずに生活している人は何百万人も思います。ですから臼蓋形成不全があるからといって、それが痛みに直結するかどうかはわかりません。
変形性股関節症の場合、痛みは骨由来のものだけではなく、筋肉や関節の炎症などさまざまな原因が考えられます。
ですから、ここで考えていただきたいのは、ご本人さまも書かれていますが、臼蓋形成不全自体が痛みを出していたかどうかということです。
考えるべきなのは、元々あった痛みが本当に臼蓋形成不全が原因だったのか、そうではなかったのか。また現在の痛みが臼蓋形成不全によるものなのか、そうではないのか。
例えば股関節周囲の筋肉が原因であったり、股関節自体に炎症があることで痛みが出現することもあるのです。
痛みの種類をしっかり分類していけば、関節が悪いのか、骨が悪いのか、筋肉が悪いのか、それ以外なのか、なんとなくやるべきことが見えてきます。
また今回のご質問で書かれている「膝の痛み」についても同様で、股関節からくるものなのか、膝単独で悪くなったものなのか、その判別をする必要があると思います。股関節が原因で膝関節に痛みがでることもありますし、その逆で膝関節が原因で股関節痛が出現することもあります。
進行期および末期の変形性股関節症のなかには、十分な骨棘形成がみられると、疼痛やX線像の改善する例がある
(変形性股関節症診療ガイドライン.南江堂,2008)
臼蓋に関しては痛みと被覆率がリンクしないことも多いですし、良い意味で変化していくこともあります。
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まとめ
臼蓋形成不全と痛み、被覆率の関係は個々の症例によって違ってきます。軽度の臼蓋形成不全でも強い痛みを訴える方もいれば、臼蓋の被いがかなり少なくてもあまり痛みを訴えない方もいます。
股関節のレントゲン撮影をすれば、CE角やSharp角から臼蓋形成不全の状態はわかりますが、これはレントゲンから読み取れる目安の1つにしかなりません。
逆に考えれば、どんな立位姿勢をしているか、どんな歩き方をしているか、これらの方が痛みと直結しやすいと思います。
ですから普段から申し上げているように、姿勢や歩行を適切な方法に改善していく必要があるのでしょう。